人生のどん底が過ぎた頃思い出したいこと



彼氏と別れてすぐに4月が始まり、日に日に色んなものに追われて本当にしんどい今、先の見えない長いトンネルとはこのことか、と思っている

彼氏への寂しさは憎しみに代わり、夜勤続きのシフトでヘトヘトになり表情も固まり、ついでにおばはんからは嫌味の連続で、新学期ガイダンスで久しぶりに集まった学科の子たちはみんな勉強の話ばっかりで、みんな私より勉強してるように見えて、なのにヘトヘトなせいにして勉強に身が入らない自分に嫌気がさしている、典型的負のスパイラル

消えたいって気持ちが死にたいになった




何連勤目かの夜勤を終えてコメダで5時間粘って勉強して、つらいつらいとついったーで吐き出しながら家に帰ってちょっとだけ横になった、「自分のために休むってこういう事かなぁ」なんて思った


2年生の頃よくいってたバーのマスターから2日前くらいに「土曜日空いてる?あそぼ!」って連絡が来てたから、会うの半年ぶりだぁと思いながら出かけた


友達がやってるバーで今夜ライブがあるからさ、その前にどこか行こうって言ってくれて、満開の桜を見に行った。

屋台も出ていてカラオケ機器まで出ていてどんちゃん騒ぎな広場を見て、平和ですねぇって言うと笑われた。 

この街に来て4度目の春、ゆったりと桜を見るのはこれが初めてで、春ってこんなに穏やかだったんだなぁ、忘れていたなぁって考えながら歩いた。


移動してマスター行きつけの居酒屋で美味しいお刺身と日本酒をいただき、目当てのバーに入るともう満席、こんな私と仲良くしてくれるマスターだから顔が広くて、来るお客さんのほとんどとお喋りしてた。

ジャズの演奏が始まった。

ジャズがなんなのかわからないけど、心地いいハーモニーと抑揚が少なくて穏やかな構成が良いなぁ、ロックが人生における感情の起伏を歌うならジャズはそれ以外の平穏さを演奏してるのかなぁと思いつつ、隣で気持ち良さそうに椅子ごとゆさゆさ揺れていたおじさんに「ジャズとロックは何が違うんですか?」って聞いたら、にんまり笑って「一緒だよ」とひとこと言われた。それで良いんだよね、難しいことなんて何一つ要らない。

楽器を鳴らす人たちは本当にキラキラ楽しそうで、幸せそうだなぁと思うと同時に「私も今幸せだ…」って気がついた。今なら、彼氏のこと許せると思った。 後からマスターが「サックス奏者さん、少し前に離婚してその時死んじゃうんじゃないかと心配したけど今は元気そうでよかったよ」って言っていて、辛いことがあって死にそうになるのは私だけじゃないんだ、そこまで落ち込んでもあんなにキラキラになれるんだ、って心が軽くなっていくのがわかった


演奏が終わるとチラホラお客さんも引いていく。演奏の合間にずっと茶々を入れていた誰よりも大きな声のおじさんがマスターと私の方に寄ってきて、紳士っぽい普通のおじさんも途中から混ざって4人でチーズをつまみにお酒を飲んだ。

声が大きくて文字通りガハハハと笑うおじさんはプロのギタリスト、普通のおじさんもベースのプロらしくて、もちろんマスターもその道で名の知れたおじさん。帰るお客さんはみんなガハハハおじさんに一言声をかけてから帰って行った。言わばこの酒場の主だな。

途中私の話になって、浮気されて別れちゃったと一通り話すと、酔いのせいもあってか言葉にして体から出すだけでスッとするような気もした。 マスターは別れた彼氏と一度会ったことがあるから「あの真面目そうな奴が浮気か?」ってびっくりしていて、ガハハハおじさんもとりあえず目をまん丸くして話を聞いてくれた、普通のおじさんは「20代前半なんて、泣いてる時間は本当にもったいないよ、楽しいことしてたらまた出会いはあるから!!」と励ましてくれた。この人もそんな経験があるのかな、と思うくらい説得力があった。


この三人のおじさんは本当に仲が良くて、特にガハハハおじさんはマスターを尊敬しているようだった。「マスターはそういうところがすごい!俺には出来ないんだよな〜」って本人を前にうっとりしていた。ストレートに相手を褒めることができるガハハハおじさんも十分すごい。私も大人になってこんな友達と出会いたいよ〜〜



帰りはちょっと多めにタクシー代を持たせてくれて、コンビニに寄ってミニのカップラと菓子パンを買って無心で食べた。その頃には死にたい気持ちもなくなっていた。明日から頑張れそうな気がした。



ここまで思い詰めることなんて大学一年の秋ぶりで、まさにどん底な日々を過ごしていた。時間が解決してくれるとよく言うけど、解決に至るまでのその時間はめちゃくちゃしんどいじゃないか、どう生き延びれば良いのさ、って途方にくれていた。

そんな私を救ったのは桜と酒と音楽。あと三人のおじさん。ありがとう。




あとひと月、平成が終わって新しい時代が始まる頃には気持ちが楽になっているのかな。泣かないでその日その日をなんとか乗り越えていけてるならそれだけでいいかな。  一年くらい経ったら笑い話にしていられたらいいね。 ひと月後、この日記を読み返そうと思う。